アメリカの大学でサッカーを始めた1年目、渡米から2〜3か月たったころに「なんだか帰りたい」「思っていたより、しんどい」と感じる選手は少なくありません。ホームシックやカルチャーショックは、弱さの表れではなく、新しい環境に本気で向き合っているからこそ起きる自然な反応です。大切なのは、一人で抱え込まず、早めに、合った人に話すこと。そして日本にいる家族が、落ち着いて「聞き役」になれることです。
この記事の範囲は、渡米後1年目の心の波と、大学の中の相談先、保護者が日本からできることです。出発前の準備は 出発前90日の保護者チェックリスト に、カウンセリングを含む保険の扱いは 留学生の健康保険 にまとめているので、本稿では繰り返しません。ここに書くのは一般的な情報で、医療や心理の専門的な助言ではありません。気になる状態が続くときは、大学のカウンセリングセンターや医療の専門家に相談してください。情報は2026年10月時点で公式ページ等を確認したものです。
定義(答えの形): 留学1年目のホームシックは、到着から2〜3か月後に出やすいと言われます。アメリカ大学サッカーでは、8月にプレシーズンが始まるため、その時期が秋シーズン終盤の10〜11月と重なりやすくなります。多くの場合は時間とともに和らぎますが、話せる相手と相談先を早めに持っておくことが、いちばんの備えになります。
結論:1年目に落ち込むのは珍しくない。大事なのは「早く・合った人に」話すこと
答えから書きます。1年目に気持ちが沈む時期があるのは、ごく普通のことです。特に留学生アスリートは、言葉・文化・競技・学業の変化が一度に来るため、波が大きく出やすいと考えられています。
覚えておきたいポイントは三つです。
- 波には「来やすい時期」がある。 先に知っておくだけで、「自分だけがおかしい」と感じにくくなります。
- 大学には相談先が複数ある。 コーチだけでなく、アスレチックトレーナー、カウンセリングセンター、留学生オフィスなど、悩みごとに合う窓口があります。
- 家族の役割は「解決」より「伴走」。 日本からすぐに答えを出そうとするより、話を聞き、相談先を一緒に確認するほうが力になります。
数字で見る:留学生アスリートの1年目
答え:NCAA の資料でも、留学生アスリートにとって1年目は特に支えが必要な時期だとされています。
NCAA が2021年に開いた International Student-Athlete Inclusion Think Tank の要約(Executive Summary)では、1年目の留学生アスリートは国内の選手より転校する割合が高く(25%対14%)、所属感(sense of belonging)を感じていると答えた割合が低い(72%対79%)というデータが紹介されています。同じ資料は、文化の違い、食事の変化、オリエンテーション不足といった「最初の移行期」に支援を集中させる必要があると述べています。
裏を返せば、つまずきやすいのは本人の性格や能力の問題ではなく、環境の変化が大きいから、ということです。また、NCAA は全加盟校に対し、NCAA の Mental Health Best Practices に沿ったメンタルヘルスの支援や情報を選手が利用できるようにすることを求めています。具体的な窓口や体制は学校によって違うので、入学したら最初に確認しておきましょう。
1年目の波カレンダー(サッカー日程と重ねて)
答え:アメリカ大学サッカーの1年目は、気持ちの波がサッカーの日程と重なりやすいのが特徴です。下はよくある流れの一例で、すべての選手に当てはまるわけではありません。
- 8月:プレシーズン(忙しくて平気な時期) 到着してすぐ練習とフィットネステストが始まり、気が張っているので「意外と大丈夫」と感じやすい時期です。報告日と流れは プレシーズン報告日 を参照してください。
- 9〜10月:最初の谷 授業が本格化し、課題が増え、出場機会の見通しも見え始めます。疲れと「思っていたのと違う」が重なりやすい時期です。
- 11月:シーズン終了と期末 秋のシーズンが終わると、毎日あった練習と仲間との時間が急に減ります。日も短くなり、期末試験も近づきます。感謝祭(Thanksgiving)の連休に寮が静かになり、寂しさを感じる選手もいます。
- 12〜1月:冬休みの帰国と再渡米 日本でほっとしたあと、再びアメリカに戻るときに気持ちが重くなることがあります。帰国と再入国の書類は 一時帰国と再入国 にまとめています。
- 1〜4月:スプリングシーズンと2回目の谷 寒さ、公式戦のない練習期間、2学期目の課題が重なります。一方で、英語や生活に慣れて楽になったと感じる選手も多い時期です。
ケガや出場時間が少ない期間は、どの月にも起こり得る「個別の谷」です。カレンダーと別に、気にかけておきましょう。
選手特有のきっかけ7つ
答え:一般の留学生と比べて、アスリートには特有のきっかけがあります。先に知っておくと、「これは自分だけの問題ではない」と受け止めやすくなります。
- 出場時間:日本では主力だった選手が、1年目にベンチから見る時間が増えることは珍しくありません。
- コーチの英語と指示の速さ:練習中の短い指示や戦術用語が聞き取れず、焦ることがあります。ポジションの伝え方は ポジションとコーチの言葉 が参考になります。
- チームの雰囲気とノリ:先輩後輩の距離感、冗談、ロッカールームの空気が日本と違い、戸惑うことがあります。
- ケガ:プレーできない期間は、チームとの距離を感じやすくなります。ケガとの向き合い方は ケガとレッドシャツの現実 にあります。
- 食事と体重:食堂のメニューや量の違いで、体調や体重が変わることがあります。
- 授業の課題量:遠征と授業の両立で、睡眠が削られやすくなります。1週間の流れは 学生アスリートの1週間 で確認できます。
- 時差とSNS:日本の友人が楽しそうに見える投稿や、家族と話せる時間の少なさが、孤独感を強めることがあります。
カルチャーショックの中身(サッカー編・生活編)
答え:カルチャーショックは、大きな出来事より、小さな違いの積み重ねで起きることが多いです。
サッカー編 練習中に大きな声で要求し合う文化、自分から出場時間について話しに行く習慣、試合前の音楽やセレモニーなど、日本の部活とは違う「当たり前」があります。遠慮していると、意欲がないと受け取られることもあります。
生活編 ヤードやマイル、華氏の気温、車がないと動きにくい町、チップの習慣、寮のルームメイトとの生活リズムの違いなど、毎日の小さな「わからない」が続くと疲れがたまります。
どれも、慣れとともに楽になることが多いものです。わからないことを一つずつ質問できる相手がいると、ぐっと過ごしやすくなります。
大学の相談先マップ
答え:悩みごとによって、最初に話す人を変えるのがコツです。下の表は一般的な例で、役職名や体制は大学によって違います。入学後のオリエンテーションで、実際の窓口と連絡先を確認してください。
| 困りごと | 最初に話す人 | 次に話す人 |
|---|---|---|
| 眠れない・食べられない・気分が沈む | アスレチックトレーナー | チームドクター、大学のカウンセリングセンター |
| 気持ちを誰かに聞いてほしい | カウンセリングセンター(アスレチック部にメンタルヘルス担当がいる大学も) | アスレチックトレーナー |
| 出場時間・役割の不安 | アシスタントコーチ | ヘッドコーチ(面談を予約) |
| 授業についていけない | アカデミックアドバイザー | スタディホール、チューター、教員のオフィスアワー |
| ビザ・休学・帰国の相談 | 留学生オフィス(DSO) | アスレチック部のコンプライアンス担当 |
| 寮やルームメイトの悩み | 寮のRA(Resident Assistant) | 寮の管理スタッフ |
| 保険・費用 | 学生保険の窓口 | 保護者と一緒に確認 |
| ちょっとした生活の疑問 | チームの先輩、留学生の友人 | 日本人・アジア系の学生団体 |
カウンセリングセンターでの相談内容は、一般に秘密が守られる仕組みになっていますが、例外や詳しい扱いは大学ごとに確認してください。英語での相談に不安がある場合は、通訳や多言語対応があるかを聞いてみる価値があります(対応は学校により異なります)。
選手本人ができること(小さく・具体的に)
答え:大きく変えようとするより、毎日の小さな習慣を整えるほうが続きます。
- 生活リズムを固定する。 起床・食事・就寝の時間をそろえるだけでも、気持ちが安定しやすくなります。
- チームメイト一人に話す。 全員と仲良くなる必要はありません。一人、気軽に話せる相手がいれば十分です。
- 日本人や留学生のコミュニティを持つ。 母語で話せる時間は、大きな安心になります。ただし、そこだけに閉じこもらないバランスも大切です。
- 「助けて」の英語を準備しておく。 たとえば次のような短いフレーズです。
- "Can I talk to you for a few minutes?"
- "I'm having a hard time adjusting."
- "I haven't been sleeping well lately."
- "Could you explain that one more time, slowly?"
- "Who should I talk to about this?"
- できたことを書き出す。 一日一つ、「今日できたこと」をメモすると、成長を実感しやすくなります。
保護者が日本からできること・避けたいこと
答え:家族ができる一番のことは、安心して本音を話せる場所でいることです。解決策を急がず、話を聞き、必要なら相談先へつなぐ。その姿勢が、遠く離れていても大きな支えになります。
すること:連絡のリズムを決め、聞き役になる
まず、連絡の頻度と時間帯を本人と一緒に決めます。毎日でなくても、「週に2回、日本の朝に10分」など、予定として決まっていると安心感があります。時差の目安は次のとおりです(アメリカの夏時間は2026年は11月1日に終わります)。
| アメリカの地域 | 夏時間中(〜11月1日) | 冬時間中(11月1日〜) |
|---|---|---|
| 東部(ニューヨークなど) | 日本より13時間遅い | 日本より14時間遅い |
| 中部(シカゴ・テキサスなど) | 14時間遅い | 15時間遅い |
| 西部(カリフォルニアなど) | 16時間遅い | 17時間遅い |
話を聞くときは、遮らずに最後まで聞くこと、「それはつらかったね」と気持ちを受け止めることを意識します。そのうえで、「大学で話せる人はいる?」と相談先を一緒に確認しましょう。好きな日本の食べ物や、ちょっとした手紙を送るのも、言葉以上に気持ちが伝わることがあります。
避けたいこと
- 毎日の長電話:安心のつもりが、現地での人間関係づくりの時間を減らしてしまうことがあります。
- 「すぐ帰っておいで」という反射的な返事:気持ちは自然ですが、学期の途中での帰国はビザや学費に影響し得ます。まず話を聞き、情報を集めてから一緒に考えましょう。
- 親がコーチに直接抗議する:出場時間や起用の話は、まず本人がコーチと話すのが基本です。
- 成績や出場時間の問い詰め:結果を聞くより、「最近どう?」と過程を聞くほうが本音を引き出しやすくなります。
会いに行くべきかの目安
会いに行くことが助けになる場合もあれば、本人が現地で踏ん張ろうとしているときには逆効果になる場合もあります。本人の希望を聞き、大学のスタッフにも相談したうえで決めるのがよいでしょう。後述の「すぐに助けが必要なサイン」がある場合は、迷わず現地の緊急窓口を優先してください。
環境の合う大学選びから、渡米後に相談しやすい体制づくりまで一緒に考えたい方は、相談の申し込み から状況を送れます。NextPitch はカウンセリングや医療を提供するものではありませんが、家族が比べるための材料を一緒に整理します。
「帰りたい」と言われたら:決める前に確認する5つ
答え:「帰りたい」は、多くの場合「今つらい」というサインです。すぐに結論を出す前に、次の5つを一緒に確認しましょう。
- 何がいちばんつらいのか:サッカー、授業、人間関係、体調。原因によって相談先が変わります。
- 学期途中でやめた場合の影響:F-1 の留学生が DSO の承認なしに授業をやめると、在籍資格を失う可能性があります。DSO が承認した早期退学(Authorized Early Withdrawal)でも、原則15日以内に出国する必要があると案内されています。体調が理由の場合は、診断書などに基づく履修軽減(Reduced Course Load)の制度もあります。必ず 先に 留学生オフィスに相談してください。在籍のルールは F-1のフルタイム在籍 も参考になります。
- 奨学金・学費・競技資格への影響:途中退学は、奨学金の継続、学費の返金、今後の競技資格に影響し得ます。財務とコンプライアンスの担当に確認します。
- 学期末やシーズン後まで待てるか:つらさが和らぐことも多いので、安全が確保できているなら、区切りのよい時期まで情報を集めて判断する方法があります。
- それでも合わない場合の選択肢:環境そのものが合わないと分かったら、転校も一つの選択肢です。焦らず、情報をそろえてから考えましょう → トランスファーポータル。
緊急時の線引き(今すぐ助けを求めるサイン)
答え:ほとんどのホームシックは時間と周囲の支えで和らぎますが、まれに「すぐに助けを求めたほうがよい」場面もあります。そのときに迷わないよう、線引きを家族で共有しておくと安心です。
今すぐ現地の助けを求めたいサイン(例)
- 自分を傷つけたい、消えたいといった言葉が出る
- 命や身の安全に関わる危険がある
- 何日も食事や睡眠がほとんどとれていない様子が続く
- 連絡が急に途絶え、心配な状況が続く
アメリカでの連絡先
- 命や安全に関わる緊急時:911(警察・消防・救急)。大学のキャンパスポリス(Campus Police)の番号も、入学時に携帯に登録しておきましょう。
- 988 Suicide & Crisis Lifeline:アメリカ国内で、電話またはテキストで「988」につながる24時間・無料・秘密厳守の相談窓口です。命の危機だけでなく、孤独や強い不安などでも利用できると案内されています。
- 大学の窓口:カウンセリングセンターの時間外対応、寮のRA、アスレチックトレーナー。
日本にいる家族が心配な状況に気づいた場合は、本人に連絡がつかないときに頼れる現地の連絡先(チームスタッフや寮の窓口など)を、あらかじめ本人の同意を得て控えておくと安心です。
日本側の窓口
- 在留期間が3か月以上になる場合は、住所を管轄する日本の大使館・総領事館に在留届を出しておきます。事件や事故、緊急事態のときに、領事館が安否確認や支援を行う際の基礎になります。トラブルの相談先としても、管轄の大使館・総領事館の連絡先を控えておきましょう。
- 保護者自身が不安を抱えたときは、厚生労働省の「まもろうよ こころ」に、日本国内の電話・SNS相談窓口の一覧があります。受付時間や海外からの利用可否は窓口ごとに異なるため、最新情報を公式サイトで確認してください。
この記事は医療や心理の助言ではありません。心配なときは、一人で判断せず、専門家に相談してください。
渡米前にできる予防
答え:いちばんの予防は、本人が落ち着いて過ごせる環境を選ぶことです。大学選びの段階で、次のような点を確認しておくと安心です。
- アスレチック部にメンタルヘルスの担当者や連携窓口があるか
- 留学生向けのオリエンテーションやサポート体制
- 日本人やアジア系の学生の数、日本人学生団体の有無
- 気候や町の規模、車がなくても生活できるか
- チームに留学生がどれくらいいるか
出発前の準備全体は、前述の出発前チェックリストで確認できます。
NextPitchの考え方
NextPitch は、有名校ではなく FIT を軸に大学選びを考えます。本人が安心して過ごせる環境こそが、サッカーでも学業でも力を出すための土台だと考えているからです。名前ではなく FIT で選んだ大学なら、つらい時期があっても乗り越えやすくなります。アメリカ大学サッカー留学の全体像は カレッジハブ にまとめています。
Varsity 以外の選択肢も含めて、大学でのサッカーとの付き合い方を知りたい方は、大学のクラブサッカー(NIRSA)という選択肢 も参考にしてください。
FAQ
ホームシックはいつごろ来やすい? 到着から2〜3か月後に出やすいと言われます。サッカー選手の場合は、10〜11月のシーズン終盤から終了後に重なることが多いです。
何か月くらいで慣れる? 個人差が大きく、一概には言えません。1年目の後半には慣れたと感じる選手も多い一方、波を繰り返しながら少しずつ慣れていくのが一般的です。
カウンセリングは英語だけ? 多くは英語ですが、通訳や多言語対応がある大学もあります。カウンセリングセンターに直接聞いてみてください。
カウンセリングの費用は? 大学のカウンセリングセンターは、学生なら一定回数まで追加費用なしで利用できる場合がありますが、回数や条件は学校によって異なります。保険の扱いは保険の記事で確認してください。
親が大学に直接連絡してもいい? 連絡すること自体はできますが、アメリカの大学では、本人の同意がない限り、成績や相談内容などの記録を保護者に伝えない仕組み(FERPA)が一般的です。まずは本人と話し、必要なら本人の同意のもとで大学とつながる形が現実的です。
途中で帰国したらビザはどうなる? 状況によって大きく異なります。DSO の承認なしに授業をやめると在籍資格を失う可能性があるため、帰国を考えたら必ず先に留学生オフィスに相談してください。
次の一手
本人が安心して過ごせる大学選びから、渡米後に相談しやすい体制づくりまで一緒に考えたい方は 相談の申し込み へ。進路や心の状態について結果を約束するものではありませんが、家族が落ち着いて判断するための材料を一緒に整理します。

